結論

思考力を伸ばす質問のポイントは、「はい/いいえ」で終わらない開かれた質問(なに・どうして・どうやって)を使い、子どもの答えを受け止めて会話のラリーを続けることです。正解を確認するテストのような質問ではなく、大人も答えを知らない問いを一緒に考えることが、言葉と考える力の両方を育てます。

要点

  • 子どもの発信に大人が応じる「サーブ&リターン」の往復が脳の回路をつくる
  • 2歳児への研究では、語りかけの量より「なに・どうして」型の質問の多さが語彙と推論力に関係した
  • 開かれた質問は子どもの答えを長く、複雑にする
  • 質問は詰問ではなく対話。子どもの答えに正誤をつけずまず受け止める
  • 「見る→考える→不思議に思う」のような決まった問いの型は繰り返すほど効く

理由・背景

会話のラリーが脳を育てる

ハーバード大学こども発達センターは、子どもが声や表情、指さしで発信(サーブ)し、大人がまなざしや言葉で返す(リターン)往復を「サーブ&リターン」と呼び、この応答的なやりとりが脳内の神経接続を強め、言語や社会性、のちの高次の認知能力の土台になると説明しています。質問はこのラリーを長く続けるための道具です。一方的に問い続けるのではなく、子どもの答えを拾って次の一球を返すイメージが近いでしょう。

質問の「質」が語彙と推論力に関係する

質問なら何でもよいわけではありません。Roweらの研究(2017年、PubMed掲載)は、2歳児とその父親41組の家庭での遊び場面を分析し、語りかけの総量ではなく「なに・どこ・どうして」といったwh型質問の多さが、子どもの語彙と1年後の言語的推論力に関係していたと報告しています。wh型の質問を受けた子どもは、返答がより長く、文法的にも複雑になっていました。「これは何色?」のような確認ではなく、「どうしてこうなったんだろう?」のように子どもが自分で文を組み立てる余地のある質問が効くということです。

問いの「型」を繰り返す

ハーバード大学の研究プロジェクトProject Zeroは、思考を支える短い問いの型「思考ルーチン」を公開しています。たとえば「See, Think, Wonder」は、何かを見て「何が見える?→何が起きていると思う?→何が不思議?」と3段階で問う型です。Project Zeroは、毎回違う問いを使うより、同じ型を繰り返し使うことで子どもに考え方の筋道が身につくとしています。筋トレのように、型の反復が思考の習慣をつくるという発想です。

Atelier Whyの考え方

編集部が名画や絵本を使った「ハブルータ」(問いの対話)や、See, Think, Wonder・Circle of Viewpointsなどに基づく思考力ワークシートを提供しているのは、まさにこの「問いの型を親子で繰り返す」ためです。大切にしているのは、親が答えを知らない問いを選ぶこと。「キリンの首はどうして長いと思う?」に正解を返す必要はなく、「そう考えたんだ、どうして?」と返せばラリーは続きます。年齢の目安としては、3歳前後は「どっちが好き?どうして?」の二択+理由から、4〜5歳は「次はどうなると思う?」の予想、6歳からは「もし〜だったら?」の仮定の問いへ。英語の動画を見たあとの一言の問いかけも、立派な思考の時間になります。

今日からできること

  1. 今日の会話で「はい/いいえ」で終わる質問を1つ、「どうして?」型に言い換えてみる
  2. 絵本や動画のあとに「何が見えた?何が不思議だった?」と2つだけ聞く(See, Think, Wonderの簡易版)
  3. 子どもの答えに正誤を言わず、「そうなんだ、それでどうなるの?」とまず1回返す
  4. 夕食で「今日いちばん不思議だったこと」を家族全員が1つずつ話す
  5. 子どもからの「なんで?」には即答せず、「〇〇はどう思う?」と一度打ち返してみる

よくある質問

質問しても「わかんない」しか返ってきません

質問が大きすぎるサインです。「どう思う?」の前に「何が見える?」という観察の問いから始めると答えやすくなります。また、まず大人が「ママはこう思うんだけど…」と自分のサーブを見せるのも有効です。沈黙も考えている時間なので、すぐ次の質問を重ねず数秒待ってみてください。

質問ばかりすると嫌がられませんか?

テストのように感じると子どもは嫌がります。目安は、質問より「受け止め」を多くすること。答えを評価せず「面白い考えだね、どうしてそう思ったの?」と続ければ、質問は詰問ではなく遊びになります。1日にたくさん聞くより、1つの問いで長くラリーするほうが効果的です。

何歳から始められますか?

サーブ&リターン自体は0歳の喃語への応答から始まっています。言葉の質問として意識するなら、上のRoweらの研究が2歳児を対象にしているように、2歳ごろから「なに?」「どこ?」の簡単なwh型質問を遊びに混ぜるとよいでしょう。「どうして?」「もし〜なら?」は4歳以降に少しずつで十分です。